毛糸にはつかず、テープ同士はくっつく「自着テープ」に新たな活路を見出す
小林の特殊紙に対する目利きには驚かされるものがある。天然ゴム由来の糊剤が片面に塗布された紙をテープ状に巻いた「自着テープ」という商品はその一例で、他の紙や布などには一切付かず、同じ糊剤にのみ反応し強く結着する。工場でケーブル等を移送する際の一時結束に使われており、業界内では別段珍しくもない商品だったが、先代社長は「BtoCに展開してはどうか」と提案した。
小林はテープの紙質や塗布する糊剤の選定に奔走し、小売用の自着テープを新たに開発。ラッピングやパン包装で使われる針金入りのビニールタイは廃棄の方法に悩みがちだが、自着テープは紙なので処分しやすい。ティッシュや毛糸にも反応しないので、旅行時のパッキングや衣替えにも使える。新たな一時結束ツールとして、大手100円ショップや人気雑貨店で注目されている。
小林の強みは既存のものに新たな角度から光を当てる発想力
これまでも紙に機能を与える加工を得意としてきた小林。大手との価格競争を避けるため、特殊紙や機能紙と呼ばれるユニークな紙を手広く扱うようになったが、ただ珍しいものをそのまま売るのではなく、既存のものの用途に新たな角度から光を当てることに長けている。
紙製磁気カードからプラスチックのICカードへの移行が進む中、プラカードへの印刷に対応するため導入したUVプリンタも、「カード以外にも印刷ができるのでは」と気づいたことで、販促物やオリジナル商品、野球ボールのような球体にも印刷の幅を広げた。
また、文具メーカー・プラチナ万年筆からの注文も大きな気づきになった。限定インクキャップの小ロット加工という注文に対し、キャップに彫り込むのではなく、クリアのUVインクを重ね塗りすることで高級感のあるデザインを実現した。
アイデアの源は他者との対話。近隣企業との接点や対話を求めて江東ブランドに
小林のアイデアの源泉は「こんなことできないかな」「こんなものがあったら面白い」という生の声。顧客やパートナー企業と話す中で思わぬニーズに触れ、特殊紙の新たな用途に気づかされるのだという。江東ブランドに応募したのも、今まで付き合いのなかった近隣企業との接点を求めてのことだった。
多岐にわたる紙加工の技術と知識はもちろん、知る人ぞ知る紙の力を新たな領域に展開し、可能性を模索する発想力とチャレンジ精神が小林の最大の強み。新しいアイデアを求め、今日も対話の相手を探している。