花切子で描く 愛と人情

目黒硝子美術工芸社

現在では担い手の少ない「花切子」を専門とする家族経営の切子工房。ダイヤを筆として用いて、水墨画のごとくガラス面に花鳥風月を描く。一点一点、手作業で彫った作品は都心の有名和雑貨店で販売されるほか、オーダーメイドの注文も引き受ける。引く手あまたの人気ゆえ、納品までに数か月〜年単位で待つ人も多い。

ガラス製品製造・販売
Meguro-Glass Arts and Crafts

目黒硝子美術工芸社

住所
〒136-0074 江東区東砂1-3-9
tel
03-3640-8681
fax
03-3640-8681
代表
目黒 祐樹

水墨画のような世界を描く、数少ない花切子専門の工房

「花切子」とは江戸切子の手法のひとつであり、独特の表現が持ち味の切子である。いわゆる切子の幾何学模様がもつ凛とした鋭さとは対照的に、小さな砥石を筆のように操り、濃淡をつけて水墨画のような花鳥風月の世界を描く。同じ「切子」が名につくものの、専門的な技術や道具を要するため、花切子を生業とする職人は年々減少している。

目黒硝子美術工芸社は、都内でも数少ない花切子を専業とする工房。先代の跡を継いだ祐樹さんが二代目として、道具屋をはじめ周囲の協力を得ながら生業を続けている。作業は自宅兼工房で、母、妻との家族3人体制で行われる。母が割り出し(下描き)をし、勢いのある線は祐樹さん、柔らかさのある描写は妻のかほるさんと分担しながら夫婦で絵柄を彫りあげる。家族で力を合わせて作られる花切子は簡単に量産できるものではないが、その唯一無二の仕事ぶりに惚れ込んだ顧客からの注文は後を絶たない。

常にノートを持ち歩き、思い浮かんだモチーフ、外で見た美しい風景、おもしろい動物の表情、気になったものはすぐにスケッチする。彼の次の作品を見たい、と待ち望むファンは多い。

顧客の「思い入れ」を引き受け、ガラスに“心”を切り込む

花切子は絵柄の精細さゆえ飾り物になりがちだが、「むしろどんどん使ってほしい」と彼らは言う。縁に群がって咲くあやめのグラスを覗き込むと、底には踊るようにすいすい泳ぐ錦鯉の姿が。表側の柄と裏側、底面の柄が重なることで新しい景色やストーリーが生まれる描き方は彼らの作品の特徴。ただ飾って眺めているよりも、手に取って使ったほうが魅力が感じられる。そして年月を重ね使い込んでいくことにより、傷や汚れが味わいとして絵柄の深みになる。

孫の好きなミニカー、亡くなってしまった愛犬、オーダーメイドには思い入れのあるモチーフが持ち込まれる。完成した作品を受け取り、目にした瞬間に泣いてしまう人もいるという。相手の思いを汲めばこそ、来た注文は断らない。唯一無二の心をカタチにする、花切子以上のものを究める職人の姿がここにある。