伝統的な襖を一貫して製造する稀有なメーカー
襖紙の下にひそむ木の骨組み「襖骨(ふすまほね)」の製造を担ってきた溝渕木工。高度経済成長期、公団住宅や一戸建ての建設が進む中、襖の需要は増え続け、骨組みだけでも製造が追いつかないほどだった。
しかし、年々襖の需要が減少する中、三代目である溝渕社長は決断をする。自ら訓練校に通い、襖骨の上に下張を重ねて仕上げに襖紙をはり周りフチを取りつける「表具、経師」の技術を身に着け、一級技能士を取得した。これにより襖の製造工程すべてを自社で担い、「本襖」を完成できる体制が整った。
きめ細かな手仕事を活かしながらも、一気通貫の製造で実現できる納期の短縮とコストの抑制。これらが溝渕木工の大きな強みだ。
現在、襖をはじめとした内装業界は、住宅供給戸数の減少、和室の減少とともに価格競争にさらされ、厳しい状況にある。その中で、社長がコツコツ続けた営業活動が実を結び、襖の修繕や製造業務がコンスタントに舞い込んでいる。特に、公的施設や都営住宅といった、数量が多く安定的な品質が求められる仕事を着実に仕上げることで、さらなる信頼につながっている。
インテリアとしての可能性を秘めた、新たな襖の魅力を伝えたい
現在、全国襖工業会長、東京表具経師内装文化協会の理事を務める溝渕社長。すべては、美しく、機能的にも優れた本襖を、時代に合わせた形で普及させたいという思いからだ。「襖は、日本の風土に一番合っている内装材だと思います。襖のもつインテリアとしての魅力、和室そのものの魅力を展示会などで伝えていきたいですね」
多様なインテリアに合わせられるほど、襖紙の色柄や、素材のバリエーションは豊富。襖一枚を仕立てるための素材、込められる技術、いずれも知れば知るほど奥深い。工場では、襖の張り替えが行われており、襖骨に下張りの薄紙、その上に、水をつけピンと張られた襖紙を張っていく。長年受け継がれる熟練の技術が現代の生活にあった新しい襖を生み出していく。