確かな伝統技法と丁寧な仕事は、美と機能を兼ね備える
清洲橋通り沿いの工房でただ一人、職人が黙々と桶を結っている工房がある。国内でも結桶の職人は5、6名ほどしかいない。四代桶栄・川又氏は都内で唯一の結桶師として、伝統技法に基づく丁寧な仕事で桶を作り続けている。
現在、桶が使われる場の一つとして代表的なのが鮨屋。仕込みから鮨として提供するまでの間、ネタやシャリを最良の状態で保つには、本物の木製の櫃・ネタ箱が欠かせない。また、昨今は板場の所作が見える内装が人気で、道具にも内装や他の食器とのグレードを合わせることが求められる。使い易さに加え、形の良さも特徴である桶栄の品はこうした場で声がかかることも多い。
プロの厳しい目にかなう品を作るためには、材木の質を見極めることと、適切な加工を施す高度な技術が必要。昔ながらの技法で丁寧に作られた桶栄の鮨桶は水の切れが良く乾きが早いので手入れも楽だと高い評価を得ている。
伝統技法が次世代へ繋ぐ、新たな桶の在り方
新しい工具が出れば試してみることもあるが、技法を大きく変えたことはこれまでにないという。それは伝統に固執しているわけではない。「今のところ、伝統技法が一番良いものができますから」と淡々と語る。
現在はワインクーラーなどの新作も手掛けている。顧客からのリクエストで作り始めたのだとか。一方、桶の潔いシルエットが映えるアクアリウム「水景」はデザイナーの意匠に結桶の技術を供出し生まれたプロダクト。コラボレーションには難しい側面もあるが、これには川又氏も「デザイン面、機能面でも満足のいくものができた」と顔を綻ばせた。
永きに渡り、皇室や宮内庁、寺社仏閣などにも桶を納めている桶栄だが、昨今は日本を代表する工芸品として海を渡り、新たな引き合いに対応する機会も多くなっている。日本の文化に根ざした伝統的な仕事と、海外にその技術と文化を伝える仕事。いずれの場面でもレベルの高い取り組みを続ける職人の手によって、700年の歴史は今なお更新され続けている。