卸売問屋の三代目が踏み切った、木材加工の道
木場の木材商としては後発の三幸林産に三代目となる馬田勝之氏がもたらした改革は、同社を経営危機から救う大きな転機となった。最大の転換点は加工機の導入。ほぞを作るなどの細かな木材加工は従来大工が行っていた作業だが、近年は騒音とごみ処理の問題から材木業者が引き受けるケースが増えている。ノウハウは一切なかったものの、「これからは手に職の時代」と一から学ぶ覚悟を決め、中古の機械を買い揃えた。それまで外注していた加工業者に内製するからと頭を下げに行くと「来月で会社を畳む」と予想外のカミングアウト。職人と顧客を引き継ぐ形で話がまとまり、期せずして新事業はすぐに軌道に乗った。
続いて低温木材乾燥機「オールドライ」を独自に開発。木材乾燥でもっとも理想的なのは天然乾燥だが、日照に左右され時間がかかる。しかし高温で一気に加熱すると、今度は細胞が劣化してしまう。そこで遠赤外線での加熱に着目。有機物に反応して熱が生じる仕組みを活かし、最小限の熱で木材を弱らせずに乾燥させることに成功した。低温乾燥された木材は社寺仏閣や劇場、重要文化財などで需要が高く、全国の材木業者が導入を検討しているという。
デザインとアイデアの力を信じ、自社ブランド開発に挑戦
端材の活用と木材の価値訴求を目的とした自社ブランド「Kiclus(キクラス)」は、機械の導入に伴って立ち上げられた。木工製品といえば木目を生かした素朴なものが一般的だが、NC加工機で格子のスリットを彫り込むだけで全く違った印象になることに驚いた。「デザインの力で木材の認識をまだまだ変えていける」と確信し、無垢材と集成材を波形に組み合わせたテーブルなど、機械だからこそ生み出せる自由なデザインに取り組んでいる。
長く深川で仕事をしてきた企業として、門前仲町や木場界隈への思い入れはひとしお。近隣の同業者らと協同し、2019年には深川公園で「The 深川 WOOD FES」を開催した。また、木場・深川発の木製品を対象とした地域ブランド「旧木場DESIGN」の立ち上げにも力を入れている。「アイデアがあれば、地域の仲間と連携してもっといろいろなことができるはず」と息巻く馬田氏の思考回路は止まる気配がない。