ニーズに合わせて事業領域を拡張、使い手にとっての価値を刷る
納税通知書やワクチン接種通知など自治体から送られてくる帳票、いわゆるビジネスフォームの製造が昇寿堂の主な事業。国内の印刷事業所約2万のうち、ビジネスフォームの印刷を主たる業務として行う印刷会社は少なく、ビジネスフォーム印刷の工業会の会員企業はたった110社といわれており、特殊な事業である反面、生活に欠かせない印刷技術でもある。重要文書を多く扱う行政からのニーズもあり、約20年前からは偽造防止技術も導入。当時、先端の海外のソフトウェアを採用し、住民票や保険証、卒業証明書の用紙などで活用されている。
また、1964年に開通した東海道新幹線の最初のダイヤグラムを印刷したのは昇寿堂である。分割して印刷された紙面を手作業でつなぎ合わせる場合、どうしてもずれが生じてしまう。そこで創業時から得意とする連続用紙の技術を活かし、1枚の長尺印刷を実現した。2008年にはデジタルデータから直接ロール紙に出力できるデジタル印刷機を導入、ダイヤグラムの製造方法は特許を取得している。関東近郊の鉄道会社の9割以上は同社に印刷を依頼するため、繁忙期には休日返上で専用機がフル稼働する。
印刷から加工まで一手に対応しており、工場内にはミシン目、穴あけ、折り加工、カード加工など、多種多様な機械が並ぶ。工数削減や作業効率を高めるだけでなく品質向上という観点でも同社は機械化、自動化を進め、さらなる自らの領域拡張を図る。
時代の変化に先駆け、次の機会を模索する
先進的な技術で進化を続ける一方、デジタル化の流れによって業界として右肩下がりであることは否めない。コロナ禍では、スーパーマーケットやイベントのチラシ印刷がゼロになったという同業もあったという。昇寿堂は行政からの発注の占める割合が大きく、自社への影響は小さかったものの、この状況は看過できない。
行政や鉄道会社の注文は季節によって業務量が変動するため、稼働の少ない期間を好機と捉え、昇寿堂は新しいプロジェクトに取り組み始めている。特に、トレーシングペーパーを使った表紙が透けるブックカバー印刷や、偽造防止の技術を応用した仕掛けのあるトレーディングカードの商品化など、エンターテインメント業界での活用に注目しているという。
設備や人、技術を活かして、本業とは違う分野でも社会にインパクトを与えたい。特殊印刷のパイオニアとして一時代を築いた昇寿堂は、次の時代へ踏み出そうとしている。「自社だけではできないこともある。コラボレーションにも力を入れていきたい」と村松社長は意気込んだ。