蜜蝋入り蝋燭、手作り毎日5万本
江戸時代にまで遡ると、灯りのない夜道を照らすため、街道の宿場ごとに立ち並ぶ蝋燭屋は大変重宝がられたという。今でいうところのガソリンスタンドのようなものだろうか。千葉街道に看板を掲げ、その伝統を受け継ぐ鳥居ローソク本舗は今も亀戸駅前に店舗を構えている。
伝統的な「蜜蝋入り蝋燭」が商品ラインナップに加わって今年で35年。現代の主流であるパラフィン製の白い蝋燭に比べると、原価の高い蜜蝋は倍近く値がはる。最初は見向きもされなかったというが、焔の温かな色味と煤の少なさ、クセのない香りは豊かで丁寧な暮らしを志向する消費者を中心に支持された。「蝋燭は毎日使うもの。大切な人の仏前には良いものを供えたい、そう思う人が当社の蝋燭を使ってくれている」と鳥居社長は分析する。
当初は事務所併設の工房で製造を行っていたが、事業拡大のため千葉県に工場を開設。蜜蝋はデリケートなため、全自動の機械製造には適さない。現在は4名の工員が手作業で日に5万本の蝋燭を製造し日本全国へ出荷している。全国の百貨店で彼らの蝋燭がショーウィンドウに並ぶようになったのも、丁寧な作業が鳥居ローソク本舗のブランドを築いた結果と言えるだろう。
蝋燭の技術を活かし、医療の現場にも
近年は蝋燭づくりの技術を他領域へ応用したいという相談も時折舞い込むようになった。たとえば医療の現場。蝋で作った医薬用カプセルは不用意なタイミングでの化学反応を防ぎ、求める反応だけを引き起こすことができる。「いろんなことを考える人がいるもんだねえ」と笑いながらも鳥居社長は「我々は製造業。我々の技術でできることがあるなら積極的に取り組んでいきたい」と前向きに語る。
「同じことだけやっていたら今まで続いていなかったですよ」。蝋燭一筋で200年近く続けてきたからこそ新しい領域にもチャレンジできる。鳥居ローソク本舗は昔と変わらぬ温もりのある蝋燭を作り続けながら、現代のライフスタイルに合った蝋燭の在り方を模索している。